国会通信 No.219


【さきがけ2議員の行動について】

 1995/9/18 (第219回 マンデーレポートの要約)


「さきがけ2議員の行動について」

● さきがけの田中甲・宇佐見登両議員の行動が問題
になっている。帰国した宇佐見議員から直接聞いた話
をまず紹介する。

1) 彼らが領海に近づいた目的は「領海内」に立ちい
るためではなく、あくまでフランスの核実験強行に対
する抗議書を直接フランス当局に対して渡すのが目的
であった。

2) この目的を、英語・フランス語を交互に使って無
電で打電しながら、他のいかなる不法な目的(漁業権
侵犯、武力行使etc)も有していないことを明示しつ
つ領海近辺に近づいた。

(報道の一部には、大音量の拡声器で抗議の趣旨を述
べながら云々とするものがあったが、事実無根。
ヨットには拡声器は積んでいなかった。)

3) 以上の行動は、一緒に乗船していたオーストラ
リア、ニュージーランド、ルクセンブルグ、スェー
デン等の議員と討議のうえ多数決で決定されたそうで
ある。

4) ヨットは領海0.5マイルのところまで近づいたこ
とは船長から告げられたがその後どこまで近づいたか
は分からなかった。

5) フランス当局の艦船(どんな大きさのものかは
聞き漏らしました)は、ヨットに対してその進路を
遮ったり、また無電や拡声器等で制止の意思を示し
たり等の阻止行動を全くしてこなかった。無言でヨ
ットを注視している感じでそれがかえって不気味だ
った。
(「フランスの制止を無視して突入」との報道もあ
るが、具体的な制止の行動はなかったとのこと。)

6) 突然フランス側の船から8人くらいの兵士を乗
せたゴムボートが一隻ヨットに向かって発進、見る
間に接近してヨットに乗船してきた。ヨット側もな
んの抵抗もせず。

7) 宇佐見議員は再三、自分たちが逮捕されたのか
どうか、身柄拘束の趣旨を質問した。これに対する
回答は「You are not arrested. You are
 undere guard.」だった。「逮捕されたのでは
なく、保護下にある。」との趣旨であろう。

● 以上の両君の行動を国際法上どう評価すべきなの
か。結論から言えば、私は、領海侵犯にはあたらない
と考える。

1) 「領海及び接続水域に関する条約」が領海侵犯の
有無を判断する国際法である。

3) 同条約14条は 「全ての国の船舶は、沿岸国の
平和、秩序又安全を害しない限り、領海内でも害さ
れることなく通行することが出来る」と定めている。
              (無害通航の自由)

4) すなわち「領海侵犯」と言えるためには、領海
内に侵入したという地理的な要件のみならず、
「平和、秩序または安全を害する航行であること」
の2つの要件を満たさねばならない。

5)今回のヨットの行動の目的は、フランスの核実験
反対行動であるが、武器を携行したりまた喧噪の
行動があったわけではなく非暴力かつ平穏の内に航行
したのであり、到底「平和、安全の侵害」と見ること
は困難であろう。

6)ただ、「秩序」はちょっと問題化もしれない。
秩序の基準をフランスの主観に置いて考えて、
領海内で行う自国の核実験の反対にやって来る
のはそもそも気に入らないから「秩序」侵害と
認めて良いだろうか。

私は、そうではないと考える。
「秩序」の解釈基準も、あくまでも一国だけの主観的基準で
判断されるのではなく、国際公法上認められた無害通航を制約
する基準として世界共通の基準として考えられるべきである。

すなわち国内法的「秩序」ではなく、国際法的「秩序」として
考えざるを得ない。そうするとこの「秩序」の侵害も単なる
気分的なものでは足らず、「平和、安全」の侵害と同列に
置かれる程度の秩序侵害、具体的に言えば有形力を行使した
実力行使的、暴力的行為を伴った形態以上のものになるべき
だと考える。

7)また、これらの要件にあたるかどうかの最終的判断権は
一体誰が持つのだろうか。

国際法上「無害通航」の観念が認められているとすれば、
それを制約する基準の解釈を一国の主権に委ねていては
自己矛盾に陥ってしまう。

結局無害通航にあたるかどうかの判断権は国際司法
裁判所が有すると解すべきであり、結局司法判断の決め手は
核行使が国際法上適法かどうかに帰着するのではないかと思う。

世界をあげて核廃絶に向かって進んでいる現状から言えば、
核実験反対行動が国際法的「秩序」に反していると
言えるかどうかが最後の論点となる。

そしてこの点からいっても今回の行動は無害通航の権利を
奪うほどの国際法的「平和、秩序、安全」を侵害している
とは言えないと考える。

したがって、領海侵犯行為があったとは言えないと考える。

● 領海侵犯ではないが、立入禁止区域侵犯か

1) 同条約16条3項は、沿岸国が「自国の安全の保護のため
に不可欠」である場合は、無害通航を一時的に停止できる
としている。今回のフランスの高等弁務官による立入禁止
区域の設定は、この規定によったようである。

しかし、老朽ヨットが無線で核実験反対の抗議書を受け
取って欲しいと無害通航してくることが、どうして
フランスの安全を害するのであろうか。

この要件自体も国際法上認められている無害通航を
制約する基準である以上国内的解釈よりも国際法的解釈が
必要であること、14条と全く同じである。

本件のような非武装で老朽化したヨットを拿捕する事が
一国の安全保護のために不可欠の行為であるとは到底考えられない。
立ち入り禁止自体の適法性自体争いうるであろう。

2) またこの基準の判断も、最終的には各国の独自性に委ねられて
いるものでなく、国際公法的基準として国際司法裁判所によって
判断されるべきであることは、14条の「平和、秩序、安全」と同様である。

核実験の強行が「自国の安全の保護のために不可欠」
であるという核廃絶の潮流に逆行するフランスの姿勢を
国際的に承認することはできない。

また、この立ち入り禁止措置を適法とわが国が承認することは、
核実験反対と全く矛盾することになることに気づくべきである。

● 両君の行動に対して賛否相半ばしているが、
以上のように無害通航と見うるかどうかが第1のポイントであり、
地理的な要件だけで領海侵犯とはならないことをご理解頂きたい。
また最終的には核実験に対する反対行動を国際法の立場でどう評価するか、
(意図のみならず、行動形態を含めて)に関連している
こともご理解いただきたい。

●いずれにしても両君の行動は議員の活動として
限界線上の行動であり、
両君ともに、多くの関係者の皆様に多くの
ご心配をおかけしたことについて深く反省している。