国会通信 No.263


 【デンマーク視察】

1996/8/5 (マンデーレポート第263回の要旨)




【帰国のごあいさつ】


去る7月22日に日本を出発、
衆議院海外視察、建設班の一員として
イタリア、デンマーク、イギリスを視察し、
8月1日に帰国しました。

訪欧中は、使い慣れぬ東芝リブレットを持参、
通信ソフト「まいとーく」をこれにインストールして、
行く先々でパソコン通信に挑戦してみました。
しかし、ホテルの通信環境(特に親子電話の仕組み)は様々で、
ヴェニスを除いては、自分の部屋からのアクセスは成功しませんでした。
残念です。

そんなわけでネットワーク活動も中断せざるを得ませんでした。
これからは、気合を入れ直して再開しますので、
よろしくお願いします。




【デンマークの高齢者住宅】

1 今回の視察のなかでもっとも印象深かったのが、デンマークの
高齢者住宅でした。デンマークの高齢者問題に取り組む熱意は
もちろんですが、いわゆる「大きな政府」「小さな政府」の
対立軸を考える際の有益な示唆を得ました。

2 視察の目的地は、コペンハーゲン市内の
アウグスト・ヴィマース通りにある高齢者住宅、
案内者は同市厚生福祉局のインターナショナル・コーディネーター
という肩書のアン・ヴィヴィ・ヴェッセルさんでした。

3 デンマークの場合、高齢者は 
(1) 在宅、(2) 老人用集合住宅、(3)シエルターホーム
(4) ナーシングセンターのどれかに居住しています。
(3)は日中介護を受けている方の施設であり、(4)は24時間介護が
必要な方の施設です。今回視察したのは、基本的にはセルフケアの
可能な方が独居している居室を集合した(2)の高齢者住宅でした。

4 ●3階建てのきれいなマンション風建物に、
2LBKトイレ・ベランダ付き約65平米のタイプの部屋が
1階、2階に各18区画、3階に16区画ありました。
(Lはリビング、Bはベッドルーム、Kはキッチン)

● 高齢者住宅を管理しているのは、住居公団。
市の審査グループが入居条件(肉体的、精神的、社会的な必要性の存在)
(収入、資産等の条件はない様子でした)を審査し、認められた
高齢者の皆さんが各自入居しています。

● 年間の家賃は86万円程度。ただし、各種補助金等を差し引くと
自己負担分は月2万円程度出すむとのこと。安いですね。

● 各階には、談話スペースがあり、また1階には看護婦さんの待機室も
あります。

● 入居している二人のご婦人の部屋をそれぞれ訪ねることができましたが
いずれも、大変清潔で整頓されており、本棚には皮表紙の思い出の本が
並んでいたり、また時々訪ねてくる家族や親戚・友人の写真が飾って
あったりして、寂しさと暖かさがいり交じった感動を覚えました。

● 住宅の周囲を、入居している老婦人達がゆったりと散歩していました。
声をかけると、やわらかな笑顔が返ってきました。独居の寂しさと不安を
ともにかばいあっているのがよく理解できました。

● 道を隔てて普通のアパートや幼稚園が隣り合っており、閑静な住宅地の
一角に何気なく高齢者住宅が立っているのも好感がもてました。

● 総じて、一人ぐらしの高齢者にとって大変良い環境が整えられていると
感じました。 

5 デンマークは、北欧型福祉の国です。すなわち高福祉・高負担の国です。 
● まず「負担」のほうですが、
94年以降、景気対策等のために所得税減税をしているようですが、
それでも所得税50%、付加価値税25%という高負担です。

● また、全就業者の約3割が公務員(日本は200万人で約3%)と
公共部門の職業に携わる人の比率が高く、「大きな政府」です。
(デンマークの人口は511万人、面積は九州と同じ4万3千平方キロ)
なお、福祉の分野でのボランティアの活動があるかと質問すると、
すべて市の職員としてやるのでボランティア活動はこの分野では
見当たらない、との明快な答えでした。

● 「高福祉」のほうは、国家予算に占める社会保障費の比率は
約38%と高く(日本は17%前後)、支出の内訳は
高齢者・障害者 約4割、保健・医療 2割弱、失業 2割弱、
家族・児童 1割、といった状況です。

6 ● デンマークの人々は、このような高福祉・高負担の政策を
どう感じているのでしょうか。ビヨン・ボルグというテニスの
世界的プレイヤーが高い税金に耐えかねて、モナコに国籍を変え
てしまったという話を聞きました。そこで、質問をしました。
若者たちは高い税金で働く意欲を失っているのではないでしょう
かと。

●すると、ヴェッセルさんは最近の世論調査の結果を話してくれました。
ある新聞が、福祉のレベルを維持するためなら税金をあげるのもやむ
を得ないと考えるか?と質問したら、なんと97%がイエスと答えた
そうです。

● デンマークの人々は、あくせくしていません。
有名なロイヤルコペンハーゲンという陶器の本店に立ち寄りました。
しかし、お客さんが殺到しているにもかかわらず、
終業時間の6時になると大きなベルがなりだし、あっという間に
閉店します。それは見事な位に残業をしません。
東洋的な「知足(足ることを知る)」の哲学を感じたりもしました。
あるいは、仕事とプライベートを厳密に区別するのが好きなのかも
しれません。そんなところに高福祉・高負担政策が今持って高い
支持を得ている理由があるのかなと思いました。

● 老齢年金や障害年金といった年金制度が赤字になる心配はないかと
質問しても、当分心配はいりませんとの答えでした。

7 ただ、高福祉・高負担の政策を取り続けられるのは、
もっと別なところに理由があるのかなという気もしています。
それは、恵まれたデンマークのエネルギー事情であり、また競争力のある
特異な産業の存在なのではないかということです。

● まず、エネルギーです。72年以前にはデンマークもエネルギー需要の
ほとんどを輸入に依存していました。しかし、その年に北海油田が
開発されました。以来原油生産量は年々増加傾向にあり、石油自給率は
110%に達しています。また天然ガスの生産も国内需要を上回り、
スエーデン、独に輸出するまでになっています。この恵まれたエネルギー
の自給自足が、デンマークのゆとりの基本なのでしょう。

● さらに、世界的な競争力を有する、現地では隙間産業(ニッチ産業)
と呼んでいる産業が、結構頑張っています。インシュリンの製造会社、
前述の陶器産業、おもちゃのレゴ等の特色ある産業が、以前からの農業や
水産業を背景に、元気です。

●これらが、どうも高福祉・高負担政策の産業的背景をなしているの
ではないかと感じました。

8 「大きな政府・小さな政府」論議や「高福祉・高負担」か等の
議論の背景に、実はその国の経済の特質や産業構造が絡んでいるとの
示唆を得た点で、今回のスエーデン視察は大きな成果があったと思います。