国会通信 No.308


 【シビリアンコントロールの危機?】

1997/7/28 (マンデーレポート第308回の要旨)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【先週の出来事】 ●24日 民主党の幹事会 に出席。     <この日の主な論議>  ※ 鳩山代表から「改革会議」について報告。  =「民主党の理念や考え方を守りながら、野党との交流を活発にしていきたい。     参加の仕方については、全党的参加、議員個々の参加、等いろいろあるが    それについては、さらに二役会議で検討する。」    この報告は、異論なく了承された。   (一部の報道では、幹事会で鋭い意見の応酬があったかのように伝えられている。   しかし、これは誤り。   幹事会では、報告に対し格別の意見を述べた者はいなかった。   それは、私も、含めて「改革会議」の参加自体は、了承しているからである。   最近の一部の報道は、意図的に民主党の内部分裂を煽っているように感じられ   る。)    ※ 私は、両代表と政調会長に対し   「6月30日付で防衛庁内に通達されたという   背広組が制服組に優越する旨の訓令の廃止は、大いに問題である。   民主党が、中心になって、あらためて   『自衛隊に対するシビリアン・コントロールのあり方』につき   国民的な議論をすべきである。」と強く意見を述べた。 【シビリアンコントロールの危機?】 1 問題点の所在 1)  いきさつ  7月23日付け朝日新聞によると、防衛庁の内局(よく「背広組」といわれる)が 幕僚監部(「制服組」と言われる)をチエックする訓令が、45年ぶりに廃止された。  橋本首相の見直しの指示を受け、事務次官名で6月30日に庁内へ通達。  その後20日余経過した7月22日に、官房長が記者会見でこのことを明らかにした。 2)  私の大きな疑問点  この訓令が廃止されたことの意味は大きい。なぜなら、この訓令は、防衛庁の前身  である保安庁ができた昭和27年に、文民統制を徹底するために、当時の吉田首相  名で出されたものであって、45年間、日本の自衛隊に対するシビリアン・コント  ロールの中核をなしていた規定であるからである。  だからこそ、廃止の理由や、廃止の結果わが国の自衛隊に対する  シビリアンコントロールの内容がどう変革されるか等の重大な問題については、  国民的な議論をしっかり経て、国民の納得の上で決定されるべき筋のものである。  しかし、廃止については「国会の議論」は全く行われていなかった、  それどころか、その記者発表も、廃止後20日も経過して行われたことなどなど、  「目立たぬようにそっとやり過ごしてしまえ」的な印象すら持つ。  事の重大性に比べて、民主的な手続の無視、議会軽視の程は甚だしい。  「シビリアン・コントロール」の内容変更に似つかわしくない、  非民主的な対応である。  私は、橋本首相に対し、訓令廃止の凍結を強く求める。  そして自衛隊に対するシビリアン・コントロールのあり方について、  国会で徹底的に論議すべきであると考える。 2 シビリアンコントロールとはなにか?  これについての見解の代表的なものを紹介すると  ※「シビリアンコントロールの本質は、政治上の責任と軍事上の責任を明確に  区別することであり、また後者の前者に対する制度的な従属である」                 (サムエル・P・ハンチントン)  しかし、これだけでは不十分である。  シビリアン=非軍人と解するのみでは、ヒットラーもスターリンも非軍人  であった。したがって、シビリアンコントロールを政治の軍事に対する  優越(=政治統制)の側面のみで捉えるのは不十分である。 ※「それは『民主的な文民統制』というべきものである。軍事力を政治に従属  させるのみでは充分ではない。もし国民の福祉を擁護し、その自由を確固たら  しめるには軍隊は、文民によって構成され、かつ民主主義的な権威に対して  従属(=民主的統制)していなければならない。」(ルイス・スミス)   すなわち「政治統制」と「民主的な統制」の二つがシビリアンコントロールの  不可欠の要素である。 3 自衛隊に対するシビリアン・コントロール (1) わが国の自衛隊に対するシビリアンコントロールのシステムは、     昭和40年(1965)に、防衛庁が国会に提出した     「シビリアン・コントロールについて」という文書に端的にまとめられている。 (2) その前文は、戦前の総括を明記し、さらに自衛隊が政治優先ないし     文民統制の原則の下にあることを宣言している。  ーーーわが国においては、旧憲法下において、いわゆる統帥権が独立し、軍の  作戦用兵に関する事項が天皇大権に属するものとされたのはもとより、  組織編成についても法律勅令によらず、陸海軍大臣のみの副書による軍令によって  定められ、また軍機軍令に係わるものは、軍政においても特別の取り扱いが認  められる等、軍に関する事項について、内閣の統制の及び得ない範囲が広かった  のである。これが軍部大臣に現役の軍人を充てる制度とあいまって、不当に  国政に影響を与えたことはいうまでもない。日本国憲法の下における自衛隊は、  もちろん旧軍の時代の体制と全く異なり、他の近代民主主義国家と同様、  政治優先ないし文民統制の原則の下にあるのであって、現在の自衛隊の  制度上及び運用上の態様は次の通りである。    (3) 3つの関係すなわち 対国会、対政府、そして防衛庁内部の3つの関係で     シビリアンコントロールの内容を説明しているが、防衛庁内部の関係では内局     の幕僚監部に対する優越が中心的な柱になっている。    1) 国会と自衛隊    防衛事務も「一般行政事務」であり、内閣は国会に対し連帯して責任を負う    (憲法73条)、出動の際の事前、事後の国会承認(自衛隊法76条、    78条)等。  2) 政府と自衛隊    内閣総理大臣の最高指揮監督権(法7条)、防衛庁長官は文民をもって充て    総理大臣の指揮監督の下自衛隊の隊務を統括する(法8条)。    国防に関する重要事項を審議する国防会議の設置等。  3) 防衛庁内部の関係    @ 内局と幕僚監部              →→ 内局………………………:    長官 → 次官→              :            →幕僚長 →→→→→→→→→:→→→ 各部隊                          :   :               →幕僚監部……………………………    A 具体的な事務処理    内局は法律、政令、総理府令等の法令案の作成にあたることとされており    また、国会や中央官公諸機関との連絡交渉は、内局の専管事項とされ、幕僚監部    の職員は、長官の承認した事務的または技術的事項以外のものについては国会等      への連絡交渉を認めないこととしており、事務の進め方においても基本的事項に    ついては内局自ら起案することとしている。    各自衛隊の業務計画を承認する場合には内局が当該計画の審査にあたるという    形で参画し、統幕等の計画を実質的に統制する建前となっている。    自衛隊の行動を規律する防衛計画についても、業務計画の手順と同様、    統合幕僚会議及び各幕僚監部で立案した基本計画について内局が検討を加えた上    で長官の決済を得て決定される。 4  内局の審議権    昭和27年保安庁訓令9号(「保安庁の長官官房及び各局と幕僚監部との    事務調整に関する訓令」)は、防衛庁の業務に関する方針や基本的事項について、    各幕僚監部が長官に提出する方針等を内局が審議する旨定めた(内局の審議権)。    これが、上記のシビリアンコントロール文書につながる出発点となった規定であ    る。    この規定は、当時の吉田総理の考え方「総じて軍人が政治を支配することを    防ぐことは、各国とも大きな内政上の問題である。一方軍人自身もその分を    わきまえて、政治に深入りしないようにすることが特に肝要であって、それには    広い視野と豊かな常識が必要である。」に依拠した規定である。    そして、上記の通り内局と幕僚監部の関係こそわが国のシビリアン    コントロールシステムの中枢をなしてきた規定である。    今回の橋本総理の指示は、この保安庁訓令9号を廃止したものである。    この指示が、上記防衛庁国会報告のどの部分をどう変更するものか    まだ正確に確認されていないが、重大な変更を迫るものであることは    間違いない。国民の論議を一切経ずに、改変することは大いに問題である。    確かに専門技術集団の幕僚監部の技術的アドバイスも全く無意味だなどとは    思わないが、政治的なリーダーシップが未熟なわが国の政治状況のなかで    軍事側の直接アプローチは、政治の軍事に対する優越を揺るがす心配は    大いにありうる。      いまや、自衛隊の活動は先日のタイへの救援機派遣でも分かるように、    その活動の幅は大いに拡大されつつあり、PKOへの参加を契機に    質的な大変革を遂げようとしている自衛隊のシビリアンコントロールの    あり方を根本から再構築すべきときに来ていると考える。      (西岡 朗 著 「現代のシビアンコントロール」を参照しました。)