国会通信 No.412


 【スバル天文台視察記 その2】

1999/10/18 (マンデーレポート第412回の要旨)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【先週の出来事】   ●12日(水)    11:00 知的財産権戦略小委員会 開催。          EUの知的財産権戦略について、駐日大使館の商務参事官マイケル          プルヒさんからヒアリング。    16:00 中国の元駐日大使徐惇信さん一行と会見。    19:00 宇都宮に戻り、県庁滝の原会に出席。 ●13日(水)    10:30 経済産業委員会の理事懇談会。          原子力臨界事故についての科技庁の報告を聞き、来週20日の質問の          日程を決定。    13:00 司法改革小委員会。          日弁連の代表者と、司法制度改革審議会への対応等について意見交換。 ●15日(金)  アメリカ国務次官捕アジア担当スタンリー・ロス氏と会見。 ◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ●スバルのすばらしさ  スバルのすばらしさをいくつかあげてみましょう。  とにかく日本の科学技術の総決算と言った感じです。  エレクトロニクス、コンピューター制御、メカトロニクス、オプティクスなど日本の  科学の総力が結集されています。 ■まず直径8メートル厚さ20センチの主鏡です。  反射望遠鏡の主役が、この主鏡。  解像度を高めるためにはできるだけ大きな鏡がほしいところです。  なめらかな放物線を描くできるだけ大きな鏡がほしい。  そして鏡は星の移動を追いかけて寝たり起きたり180度近く運動しなければ  なりません。  しかし、大きさと精度は反比例します。  かつての地球最大の反射望遠鏡だったパロマ天文台の鏡は直径5メートル。  しかしこの直径を確保するために重さは23トン、そして厚みは2メートルを越える  ものとなってしまいました。  さらに鏡は、星を追いかけて動かなければならないから、大きすぎ重すぎはゆがみの  原因になる。  この点も大変難しいコントロールが必要になります。  長い間このパロマ天文台の物理的な限界を超えることが出来ず、ハッブル望遠鏡の  ように、宇宙空間に望遠鏡を設置するまでとなりました。  この限界をようやく打ち破ったのが「スバル」や「VLT」そして「GEMINI」です。  薄い鏡面を多数のロボットが支持し制御する。  このことでパロマの壁が打ち破られました。  まずうすくて精度の高い鏡面です。  そしてゆがみの原因になる温度変化による膨張もできるだけ押さえねばならない。  この驚異的な鏡は、アメリカのコーニング社が開発した、温度変化に強い超低熱膨張率  ガラスでを用いることに決定し、最終的に主鏡の大きさは20センチの厚さで  直径8メートルと決定しました。  この大きさは、たとえて言えば東京の都市部全体を紙1枚の厚さで地ならしすること  と同じです。  いかに精密なものか想像してください。 ■ さらにこの鏡は、星を追いかけて水平から垂直そしてまた水平にと180度近く  動かなければならない。  角度に応じてひずむなどのことがあってはならない。  そして動きながらも常に最適な放物局面を作り出さねばならない。  そのカギを担ったのが鏡の底を押し上げる264本のロボットアーム(能動支持機構=  アクチュエーター)です。  この支持機構は一つ一つが力検出器を持っており、鏡から受ける力の変化すなわち  鏡のゆがみを刻々とコンピューターに伝え(一秒間に10回のペース)、それぞれが  ゆがみを打ち消す多様な対応をします。  言うならば主鏡は264人の生きている従者によって支えられ、常に最適の反射角を  用意して象を結ぶようになっているのです。  地下に行ってみると、この望遠鏡を支えるピアがあります。  そして円筒形のピアノ中には膨大なケーブルが収められています。  まさにそれは264人の従者が一糸乱れず鏡を支えるよう命令する、コンピューターの  神経細胞なのです。 ■ 西村先生によると、実はスバルには、GEMINIやVLTには見られない日本独自の工夫が  いろいろあるとのことでしたが、そのひとつがこの264人の従者の支える鏡の  ポイントです。  他の二つともロボットアームは鏡の表面を押すようになっているとのこと。  これに対し、スバルはアームの支持点を20センチ厚の鏡の中心部に持って行って  いるとのこと。  すなわち従者の腕は、鏡の厚さの真中にまで入り込んで鏡を支えているのです。  だから、表面を押さえるよりもさらに精密かつスムーズな像を結ぶことが出来る  のではないかと期待しているそうです。 ■さらに驚いたのは、鏡の表面にアルミを吹き付けて真空蒸着する仕組みです。  ところで普通の鏡は、まずガラスがありそしてその下に反射する物質が塗布されて  いますが、スバルの鏡はガラスの表面にアルミを吹きつける仕組みになっています。  そしてこの吹きつけは1年間に1回は最低行う必要があり、この真空蒸着機が地下に  設置されています。  直径8メートルの鏡を、ドームの地下におろし、アルミを溶かして鏡面から洗い流し、  さらに新しいアルミを溶かして吹き付ける作業は、すべて自動的に行われるように  なっている。  これもまたすばらしいシステムです。 ■ところで現在反射鏡100メートル構想が模索されているようです。  別にガラス主体の鏡でなくてもよいのではないか。  こんな質問を西村先生にしてみました。  例えば水の表面だって鏡としてつかえるはずでは、などと素人ならではの問いをした  ところ、実はと言って教えてくれたのが、カナダのチームが研究している水銀鏡の話。  100メートルの水銀プールを作り緩やかに回転させると、中心部が沈んだ放物曲線を  描くそうでこれを利用して、さらに大きな反射鏡を作ろうとの構想。  しかし、実現はなかなか困難そうです。  実現可能性が高いとすれば、薄い金属を張り合わせ、多数のロボットアームで  支える方法なのかな、というのが西村教授のご意見でした。 ■ 「すばる」には像が結ばれる焦点が4つあります。  そしてそのそれぞれにカメラが設置できるようになっており、望遠鏡のとらえた光を  細大漏らさず観測できるように工夫されています。   まず第1の焦点は「主焦点」。スバルには、鏡筒の先端にトップリングが置かれています。  主鏡とトップリングの間隔は15メートル。  主鏡を反射した像が第一次的に結ばれるのは、このトップリングの中心である「主焦点」  です。  そして主焦点上にまず第1のカメラが置かれています。  次に第2の焦点は「カセグレン焦点」。  主焦点に副鏡を設置し、主鏡を反射した光を再度反射させ、主鏡の中心にある  カセグレン焦点に第2の焦点を結ばせることが出来ます。  そしてここに第2のカメラを設置しています。  さらに第3と第4の焦点は、ちょうどカセグレン焦点の両側にある「ナスミス焦点」。  主鏡の中心付近に副鏡を置き、左右いづれかに光を再々反射させて結ばせるのが  「ナスミス」焦点。  ここは鏡筒の中ではなく、鏡筒をささえる視点の部分なので物理的に安定して  います。  それで大型で複雑な分光器などの観測機器を設置することができます。  視察のときは、ちょうど機械が取り外されており、左右のナスミス焦点を通して  除くことが出来ました。  これら4つの焦点のそれぞれに最新の観測機器やカメラを設置することができ、  一万×一万画素の赤外線では世界最大のの画素数を持つカメラで観測できるように  なっています。 ■ とにかく望遠鏡は優れた解像力を持たなければならない。  「スバル」は東京から100q離れた富士山頂の野球のボールを見分けることが出来る  解像力を持っていますし、さらに高速で動く星をスムーズに追いかける驚異的な  追っかけ精度(=追尾精度0.1秒角)を持っています。 ■ 西村教授によれば、現時点での検査機器の調整情況では、もてる能力のまだ10%程度  しか発揮できていないとのこと。  それにもかかわらず、前述のオリオン座暗黒星雲の赤外線観測による原始星の確認など、  すでに輝かしい成果を出し始めています。  教授によれば、これから月に1回程度は新聞をにぎわす発表をしていきたいとのこと。  本当に楽しみです。 ■ 望遠鏡を製作する主力となった三菱製作所の担当者は、持ち出しだったとぼやいている  そうです。  しかし、恐らくそれは表面上の感想だと思います。  このすばらしいシステムをくみ上げたことでの自信や社会的な評価、そして膨大な  ノウハウの蓄積は、有形無形の豊富な経済的な恩恵に必ずつながるはず。  そして、その基本的な設計思想は、西村教授をはじめとする内外の優秀な研究者集団の  努力の結果だとすれば、それはやがて広く世界全体の共有財産になっていくものです。  「スバル」を見て、科学技術の進展の大切さを改めて実感しました。 ■ 帰り際に記帳を求められました。    「平成十一年九月四日           宇宙の始源に思いを寄せ、              人類の英知に感動しました。                        参議院議員 簗瀬進」                                 と書きました。  書いた後で、前文と後文がうまくつながっていないことに気がつきました。  高山病にかかっていたからか、生来のボケがでたのか、  判別せぬままマウナケア山頂を後にしました。