国会通信 No.659

  【「大きな刑事司法」よりも「適正な刑事司法」を】

2005/4/4 (マンデーレポート659の要旨)


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 【1】大きな刑事司法よりも適正な刑事司法を 【2】感動的な山本譲司氏の話 【3】クリアな王毅大使 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 【1】大きな刑事司法よりも適正な刑事司法をめざせ。 ●先週から、衆議院で「刑事施設に関する法案」の審議がスタートしました。  明治以来の監獄法がいよいよ大きく改正されることになります。 ●内容的に見ると、受刑者に対する処遇について今までの強制労働中心で  あったものに「改善指導」「教科指導」が加わったり、受刑者に対する  刑務所側の不当な処遇があった場合の救済方法に前進が見られるなど  評価すべき点もありますが、まだまだ不充分です。 ●特に重要な法案であるにもかかわらず、筋の通った改正の基本的な  哲学が見えてこないのは大変残念です。 ●犯罪にどう対処するかは、過去も未来も変わらない「人類社会の永遠のテーマ」の  一つといっても良いと思います。  なぜなら、不特定多数の人間によって社会が構成されている以上、  必ず格差が生まれ対立が生じそして犯罪が生まれるからです。  次に、犯罪に対する処罰の適用・執行の問題がでてきます。  これが「行刑」です。  したがって、明治以来の大改正の意味は、今回の法案が  「21世紀のわが国の行刑」をどういう方向に考えるのかが明らかにされなければ  ならないと言うことです。 ●しかし、様々な前進は見られるものの、一貫して流れる行刑哲学は、  残念ながら伝わってはきません。  したがって、法案の方向性が正しいものになるよう、大きな修正案を提出しよう  ということになり、4月5日の法務部門会議でその内容を決定する予定です。 ●私は、この問題については常々「大きな刑事司法」でいくべきか「適正な刑事  司法」でいくべきかといった問題の立て方をしてきました。いたずらに重罰化し、  警察官を増員し、刑務所受刑者を増大させてはなりません。警察官を増や  せば、当然犯罪の認知件数は上昇、さらに検挙件数も上昇します。しかし社会  が不安定で規制の枠組みが壊れていく過程にあっては間違いなく認知件数の上  昇ほど検挙件数は上昇しません。  この結果、検挙率(認知件数を分母にし検挙件数を分子にした数字)は  下がってきます。  気をつけないと、「重罰化」「警察官増員」   「受刑者増加」のスパイラル現象を生み出してしまいます。  こうならないように受刑者に対する刑務所の社会復帰機能を重視していく考え方が  「適正な刑事司法」の考え方であり、私はこの考え方を民主党の法務政策の中  心に置くべきだと考えています。 【2】感動的な山本譲司氏の話  ●刑事施設  法案の審議に際し獄窓記の著者でもある元衆議院議員の山本譲司さんに来てい  ただき二度にわたってヒアリングしました。受刑者としての貴重な経験を率直  に語っていただいたことに心から感謝申し上げたいともいます。 ●冷静な視点で実体験を分析し、しかも、受刑者はもちろんのこと、  刑務官に対しても、暖かな人間的なまなざしを注ぎ続けていることに、  大変な感動を覚えました。 ●ヒアリングは2回に及びました。第1回目は現状の分析、第2回目は制度上の提言。  特に強い示唆を受けた言葉は、刑務所は「犯罪の学校」ではなく「人生の学校」で  あるべきだと言う指摘でした。  これは、今回の刑事施設法案の審議にあたっても中心に置かれる  べきポイントだと思います。  また上記の「適正な刑事司法」という命題にも当然に繋がってくる論点だと思います。 ●以下ご本人の了解を得て、ヒアリングに際し彼が作成した資料を掲載します。  とても参考になると思います。 ■「行刑施設の処遇に関する問題点について」    山本譲司 〈1〉塀の中の実態 1 刑務所内における日常生活 ・いまだに97年も前(1908年 明治41年)に施行された「監獄法」に  よって運営されている日本の行刑施設 ・日本型行刑システム・・・所長以下の刑務官に与えられている  多大な裁量権(法律や規則を逸脱した恣意的運用のおそれあり) ・「アメとムチの世界」・・・懲罰制度と累進処遇制度 ・24時間監視された日常生活・・起床・作業・食事・運動・休息・入浴・就寝 ・刑務作業と作業賞与金・・自給自足の原則 ・ 塀の外とのつながり・・・面会・手紙・新聞や図書の閲覧(すべて立会いと検閲) ・医療やカウンセリング体制、更生プログラムの不備 ・名ばかりの不服申し立て制度・・情願、巡閲官情願、所長面接の運用実態 ・困難な訴訟提起・受刑者増加に伴いパンク状態の日本の刑務所・・・  行刑施設としての本来の目的と現状のジレンマ 2 意外に多い障害者 ・知能指数テストすら受けることのできない受刑者たち・・字の読み書きが  できない以前の問題として、自分が今どこにいて何をしているのかさえ理解で  きていない受刑者もいる。 ・黒羽刑務所教育訓練工場での実感(約50名中5,6名の受刑者は、  日常会話を交わすことすら困難だった) ・黒羽刑務所「寮内工場」の風景・・・日常的に失禁者が後を絶たず、  のべつ奇声が飛び交うところ ・司法の判断を疑問視する刑務官たち・・・「彼らは一体どんな裁判  を受けてきたのか?」と首を捻る担当看守 ・「刑法39条によって、心神喪失者、心神耗弱者は罰せられない」という  一般的先入観の誤り ・「一般工場」でも数多い「寮内工場」への待機者(特に多いのは、  刑務所の中では異常性格者としか見做されていない自閉症などの発達障害の  ある受刑者) 〈2〉 今後に向けた提案 1 現状の改善 ・分類職員の処遇への参加 現在心理技官である分類職員はアセスメント  (※1)にしか関わっておらず、 受刑者への対応の中心は専ら保安職の  刑務官が行っている。  ケアの専門的知識を持つ心理技官を処遇の現場でもっと活用すべきではないか。 ・塀の中の処遇改善社会復帰に向け、それぞれの受刑者に適応したきめ  細かな更生プログラムの導入 が必要。(※2) ・医療スタッフ、福祉スタッフの増員(※3) ・刑のバリエーションを増やす(※4) ・拘置所に少年鑑別所的な取り組みを、刑務所に少年院的な取り組みを。  (鑑別所や少年院では、それぞれの被拘束者に対応した心理面・更  生面でのケアを行っている)   (※5) ・受刑者処遇改善のキーワードは、「自由な処遇よりも、充実した処遇を」 ・受刑者の社会復帰に向けた更生を考えるならば、刑務所の中だけを変えて  も仕方がない。(※6)・・・矯正局と保護局との連携、あるいは法務省と  厚生労働省との連携強化(※7)2出所後の社会復帰に向けて ・更生保護施設への支援を強化する・・・出所者が増えているにも関わらず、  更生保護施設は減り続けている現状の是正。 ・保護観察所の機能強化・・・民間ボランティアである保護司の限界(※8) ・資格取得の欠格事由の緩和 ・出所者への就労支援・・・行刑施設に就職斡旋の機能を持つセクションをつくる (※9) ※1:心理職は服役の最初に行われる分類審査にのみ関与。     大学の心理学をでたような専門的知識を持った刑務官は刑務官の2%程度。    受刑者の戒護活動に心理職はいない。    さらに、刑務官も病んでいる←この人たちも心理職のケアが必要。 ※2:ライファーズアミティー・・元受刑者たちが作るNPO    制服の言葉は最初からアレルギー。受刑者は耳を塞いでいるのが普通。    刑務所の中でもコミュニケーションができるような教育。    たとえば服役の経験をもつ人たちのNPO「ダルク」によるサポート。 ※3:刑務所で活動する医師への低い評価。      制限された医療環境の中でどうしてもそうなる ※4:医療刑(ドイツ)・・・精神障害者対応 ※5:発達障害者・・・高い初診料    多い発達障害中受刑者・自閉病受刑者 ※6:担当看守・・優秀な人材が多い    出所後の接触禁止を改善すべき ※7:出所後のことは考えていない。外の情報が入らない、これが一番つらい。    保険、年金、免許等について質問できない。    出所後の生活相談窓口が必要    就職斡旋施設が刑務所内にあるのがフランス・・・40%が就職 ※8:経営困難な状況 ⇒ 健常者のみを扱う実態 ※9:法務省の所管であるため「あて検」が多い。    刑事政策的な見方よりも福祉的な見方をすべき・・所管はむしろ将来厚労省が 望ましいか。 〈補足〉分別収容の問題点 ・刑務所は「人生の学校」か「犯罪の学校」か。   従来、後者にはならないように、できるだけ同種の刑での収容は避けた。  (累進処遇) ・カテゴリー刑務所 4級・・・が望ましい刑別はむしろ問題か?  ・担当制をどうするか  ・現場からの吸いあげがない  ・自分を分かってくれている人(=担当)がいるということが重要⇒支え  ・担当制は残したほうがよいと思う   *夜も異変があると飛んでくる  * 生育歴も把握している  ・手紙も見る・・・150人に担当1人、副担当2人  ・官舎も塀の中・・宅直  弊害もある・・・「情願」のバリア ・「俺の顔をつぶすのか」的な威圧。 【3】王毅大使の話は面白かった。 ●先週31日に行なわれた「政権交代を考える会」(鳩山勉強会)で中国大使の  王毅さんの話を聞きました。 ●氏は53年10月生まれだから現在52歳。北京外国語学院出身であり、  もちろん日本語を流暢に話す。  そのクリアで的確な語り口はなかなかのもの。 ●私はかつて鳩山さんが民主党代表としてはじめて訪中した際に同行した。  その際に中国外交部アジア局長としての王毅さんに会っている。  その当時も切れ者であり、外交部のエースと言う評価であったが、  今回日本語を駆使してのまとまった話を聞き、その印象をさらに強くした。 ●会見後の質疑応答では、島衆議院議員から、日本の安全保障常任理事国入り  問題で中国のインターネットサイトにすさまじい反対の書き込みがあることに  ついての質問が出て盛り上がったが、中国の若き指導者に共通する、  「強固な政治信条と柔らかな物腰」といったものを強く感じた。 ●韓国との竹島問題、中国との南沙諸島問題など、周辺国との緊張が  高まっているが、歴史問題などわが国として当然処理しておくべき懸案を先送り  しているから肝心な事も主張できなくなるといった悪循環は如何ともしがたい。  歴史問題についての根本的な処理を他から批判される前に先行的主体的に  行うべきである。 ●以下は王毅大使の話の要点メモ。ご参考まで。 ■1、日中相互の戦略的位置づけについて ・ライバルではなく長期安定のパートナーシップを築きたい。 ・脅威論、対抗意識を持つ必要はない。 ・お互いに相手の発展を積極的にみてほしい。 ■2、アメリカと中国 ・中米の共通利益はどんどん増えている それは以下の3点に顕著である。  @テロ  A大量破壊兵器拡期防止  B経済的利益。 ・台湾についても米との間で共通認識ができつつある。  ・武器売却については最大の対立   ・その他は台湾の問題でも共通利益・独立してはならない   ・海峡の利益 ■3 日中の共通利益を考えるべきである。 ・アジアの振興こそ21世紀の日中の共通利益。 ・少なくとも3つの共通利益がある  @ 経済的利益、相互依存関係、共同発展繁築  A 北東アジアの平和と繁栄の確保   B東亜共同体の推進 ・国際社会と連携しながら進めていく以上のことを進めていけば様々な  問題は乗り越えられる ■4 隣人同士のつきあい方について2つある  ・永遠の隣人、引越しできない    @相互尊重、相互配慮。    A政治家の対応、国際的視野、国益にたつのは当然だが、   グローバルな視点で、相手国の国内社会における反応や   対応について予測を持つことが大切 ■質疑応答 Q.安保理問題についての反日的なかきこみ。   政府が裏でやっているとの書き込みも多い A.全く無関係。 私が言うのだから間違いない。   とても神経を使って対応。ただ政府としてやめさせること   も出来ない。   そういう動きも止められない。   20代の人達に反日感情が強いのは、情報化の時代   日本の情報がストレートに入っていくのもまず若い世代。 Q.ODAについて貧困層地域のためにも続けるべきでは A.対中友好のあらわれ   ・中西部貧しいところがある   ・平均1000ドル   ・ODAの原則は「3000ドル超」はやめる    しかし、止めるとの日本政府の方針については何の異存もない。   日本が決められる問題である。    財政的理由からの決断だとしたら認めざる得ない。   ただ、終わり方はソフトランディングの方がよい。